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続報! 未開な地ジャグナー森林で起きた、愛憎劇!!(完結編)

速報! 未開な地ジャグナー森林で起きた、愛憎劇!!(前編)

……逃げようとかと思ったけど……がんばってみました……(びくびく)
というわけで、多分、カインさんくらいしか待ってないであろう、保険金殺人事件の完結編です。

えーと……前編より輪をかけて多いです。
てか、ぶっちゃけ……3倍くらいになった……orz

そしてお約束。
フィクションですから。
似た人がいても、幻ですのであしからずです。





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 緑帽子のタルタルは、頭を抱えたくなった。
「あのー……?」
 困ったように問い掛ける彼に、周囲は同時に視線を向けた。それに一瞬びくつきながら、それでも状態改善のため、彼は職務に忠実であろうと心に決める。
「……なんで、こんな団体人数に?」
「保険会社のものです」
「なりゆき」
「うははは! 事件が俺を呼んでいるー!!!」
「一緒に思われたくないですが…付き添いです」
 答えたのは、裏でブロマイドが出回っているという噂の三姉妹。そして、妙にテンションの高い、髷男。
「はあ、さいですか……」
 彼はがっくりと肩を落とすと、次いで少し離れた二人を見やった。
「お二方は?」
「妻です。ご連絡をうけまして」
「彼女に頼まれまして……」
「ああ、あなたが奥様ですね! いやぁ、美しい方だ!」
 付き添いの男性そっちのけで、彼は妻と名乗ったミスラへと駆け寄った。先ほどとは裏腹に始終にこやかなまま、手なぞをもみながらへりくだった。
「エロタルね」
「うむ。推理するまでもなく、エロタルだ」
「アホくさ」
「あ、あの所長……とりあえず波風はたてないように」
 後ろの四人の会話が、かのタルタルの耳にはいったのか判別はつかぬまま、彼はおもむろに咳払いをする。
「えーと、では本題を」
 緑帽子のタルタルは後ろの倒れているエルヴァーンを手で示す。
「奥さん、どうです?」
「あああ……」
 彼女はそのまま地面へと座りこみ、顔を覆う。嗚咽だけが辺りに響いた。
「お悔やみ申し上げます」
 悲痛な声の中、ひっそりと長女が告げる。その声すら届いていないように、ミスラは地面へとかがみこんでしまった。


 取り乱すわけでもなく、ただただ泣き崩れる彼女を、鎧姿の青年と三姉妹の長女が宥めていた。
 そこから少し離れた場所では、くだんのエルヴァーンを取り囲み、真剣な表情で何事かが交わされている。
「で、事件性は?」
「所長……そんな何でも事件と結びつけるのはどうかと…」
「いや、だってさ、名探偵たる俺がここにいるのに事件が起こらないなんて、それこそ女神への暴挙だと思わないかい?」
「相変わらずおめでたい頭をしているのね」
 冷ややかに髷を見つめる少女は、懐から取り出したタバコを口にし、次の瞬間むせかえる。
「もう、タバコなんて有害なだけなんだから」
「背伸びしたい年頃なんだろうねぇ。うんうん」
 心配気な次女に対し、髷は訳知り顔で頷く。が、それが彼女の癪に障ったらしい。
「誰のせいで、ここまでやさぐれたと思ってるのよ!」
「うーん。人のせいにするのは良くないよ」
 あくまでも爽やかに笑う。他人の精神を逆なですることにかけては一流なのかもしれない。それも、ある意味では才能と呼べるのだろうが―――。
 傍らのタルタルはどこをどうつっこめばいいのかと困惑したまま、またため息をつく。
 厄日。今日は厄日。今日を耐えれば、明日からは休暇……。
 自身に言い聞かせるように、念仏を唱えつづける哀れな彼。そこに怒涛のような質問攻めが押し寄せる。相手は、目に光を輝かせている、髷所長。
「もう一度聞くけど、事件性は?」
「ないと判断してます」
「発見時の様子は?」
「森林の中にあのかぼちゃをかぶったエルヴァーンが倒れていました。他に人影はなし」
「死因は?」
「致命傷は魔法攻撃によるものと推察します」
「じゃあ、事件なんだろ?」
「いえ、この森には凶悪な獣人どもがいますから、そいつらだと考えています」
「ということは、俺の出番は?」
「出番も何も、呼んでないんですけど……」
 冷静な突っ込みを、髷はさらりと受け流し、何事かを考えこむ。そんな姿に冷や汗いっぱいのタルタルは、
「あのー?」
「そうか……獣人の仕業として見せかける所業。これは随分と難解な事件のようだ」
 小さきタルタルの姿など、すっかり目に入らないまま声高らかに笑う髷に、今度は三女が重いため息をついた。
「姉さん、いい加減見限ったら?」
「真剣に考えたほうがよさそうね…」
 別の意味で泣きたい気分でいっぱいになる次女の後ろ姿は、なんとも哀れであった。


「仮死状態の蘇生魔法は、試されたのですか?」
 ミスラの介抱をいったん青年に任せた長女は、タルタルの元に辿りつくなり問い掛ける。
「ええ、一応白魔導士のはしくれですから、かけることはかけたのですが……」
「効かないということは……」
「既に手遅れだったということかと」
 腕を組み、彼女は考えこむ。蘇生魔法が効かないということは、既に仮死状態すらも過ぎていたということ。
 致命傷は魔法攻撃。仮死状態を通り越し、完全なる死亡。
 もしもそれが獣人の仕業だと仮定するのならば、それほど強大な力を持つ相手だということになる……。
「そもそも、どうして魔法攻撃ってわかるの?」
 むせるタバコを丁寧に携帯用灰皿にしまいこみながら、三女が問うた。それには代わりに次女が、
「武器によるダメージならば身体にはそれなりの痕が残るの。それは剣であれば剣特有の、棍であるならば……という感じでね」
「それじゃあ致命傷が魔法攻撃って確証は?」
「それは俺から説明しましょう」
 緑帽子のタルタルは、倒れているエルヴァーンにぎりぎりまで近づいた。
「彼のこの浴衣には各所に切れたあとがあります。おそらく鋭い剣なり槍なりの攻撃をかわしたと思われます」
「確かに、あるわね……」
「ご覧の通り、剣や槍……便宜上刃物と言いますが、それらのものであると認識できます。けれど刃物でつけられと見えるものは、全てかすり傷程度にしかなりえない。随分と回避が上手な方だったみたいですね。攻撃しても、微かなダメージは与えることはできても、致命傷までは至らない。そこで焦れたと思われる相手が、放ったのと考えられるのが、ここです。ここに何かしら強い衝撃を受けた痕跡があります―――わかりますか?」
 タルタルが示す場所を見ると、そこには微かに焦げたようなというより、一気に消滅を余儀なくされた跡があった。
「それが魔法によるものだと?」
「少なくとも、武器でこのような跡を残すことはできないと思います」
「でもエン系の魔法を付与した武器だったとしたら」
「いえ、それも無理です。確かにファイア系の付与をつけていたのならば、浴衣を焦がすような跡をつけられるかもしれませんが、斬撃はあくまでもその所持していた武器特有のものになります。刃物ならば切り傷。打撃系武器ならば、鬱血したような打撲の後のようなものがつきます。その上で、周りが焦げる」」
 説明をうけ、考えこむ。
 魔法攻撃によるものは確実とみて、問題なし。しかし、何か符におちない。
 考えこんだ末に、彼女は何かを心に決める。周囲を見回し、ターゲットを決めると不意に―――
「ファイガ!」
「ガ?!」
 突っ込むところが多少違うような気がしないままでもないが、いきなり炎に包まれた対象はのた打ち回った。タルタルの叫びは髷の悲鳴に掻き消された。
「熱っ! 熱い! 熱い!!!!!」
 叫び続ける髷所長を彼女は冷やかに見つめ、そして数秒後、炎は急激に消える。三女の突飛な行動を誰も止めないあたりがなんともさすがというか、なんというか……。
 三姉妹はそれぞれ読めない微笑を浮かべ、ミスラと騎士青年はこちらのことは気にもとめてない。哀れな緑帽子のタルタルだけが、恐怖におののき唖然としていた。
 髷はなんとか消えた炎に安堵の溜め息をつくと、
「ふぅ……髷に被害がなくてよかった」
 それだけかよ!!!!
 タルタルの言葉は音にならなかった。


 横たわったままの腹黒騎士の横に、髷が並んだ。
 浴衣にできた焼け焦げを見聞し、タルタルに向き直る。
「ね、ほら、ファイアでは無理じゃない?」
「あ、あれ。本当だ……ファイアだと一面に焦げ後が残っちゃう……」
 三女の実験結果により新たに浮かぶ疑念。
 腹黒騎士の遺体の後はどちらかというと、焦がすというより、消滅させるような痕跡。髷についたのは、明らかに焦がしたという感じがしてしまった。
「だったら別の核熱系の魔法じゃないんですか?」
「別の?」
「ええ、お姉さまお願いします」
「お願いって何を??」
 混乱しかけているタルタルはそっちのけで、長女はにっこりと微笑むと、
「ホーリー!」
 髷の身体が光に包まれた……。
「ひーーーー!!!!」
 なんなんだよ、こいつら!!!!
 やはりタルタルの悲鳴は声にならなかった。


 聖なる光が消滅し、自身の腹にできた痕跡を見て、髷は不適な笑みを浮かべた。
「そうか、わかった!!」
 腹と背中、両方に大きな穴をあけた浴衣は既にぼろぼろでもあったが、事件解決の代償と思えば安いもの。
「犯人は……」
 すうと息を吸い込み、周囲を見回す。それぞれの表情を確認する間、奇妙な緊張と静寂があたりを包み込む……。そして―――、
「おまえだ!」
「そのまま女神の元へお送りしましょうか?」
 ゆったりと笑顔を浮かべ、彼女は髷の突きつけた指をさらりと受け流す。それを見ていたタルタルは、感嘆の声を上げた。
「お姉さん、受け流しスキル高そうですね」
「ええ、お姉さまの趣味はタゲ取りですから」
「ホーリーで即釣りだしね」
 次女・三女が何でもにないように答えた。それにタルタルは何か解せないものを感じたが、やはり言葉は飲み込まれる。
 そんな三者のやりとりはそっちのけで、髷はそれでも口火を切った。
「いやいや、隠しても俺には全てお見通しだ。言うなれば、【じっちゃんの名にかけて!】というべきか、それとも【真実はいつも一つ!】というべきか……」
「そもそも、私はあなたのおじい様には興味はありません。それに真実という言葉ですが、事象……すなわち事実がある中で、それを個々が判断した上で生まれるべき各々の真実と解釈した場合、真実は複数存在することになりますが」
「むむむ……」
「けれどもそこまでおっしゃるというのなら、他愛のない戯言と思った上で、聞いてあげないこともないですよ」
 瞬間、ジャグナー森林の気温は、最果ての地と呼ばれるフェ・イン遺跡と同じくらいに気温が下がったのかもしれない。
 しかし髷は自身の炎を持ってその寒さを吹き飛ばすかのようにして、高らかに声を上げる。
「いやいや……残念ながら犯人は君しかありえないと、全ての状況が物語っているのだ。今回の決め手である、致命傷たる魔法傷。それとまったく同じ傷を作れるもの、すなわちそれは犯人しかありえない! よって君が……」
「それでは逆に聞きますが、刃物による切り傷の解釈は?」
「それは、君がナイフなり剣なりを使ったに決まっている」
 辺りは再び静寂に包まれた。髷のヒートアップする熱を冷ますかのようにして、長女を筆頭とする三女の温度はどんどん冷めていく。その狭間に立たせられたタルタルは、この上なく居心地の悪い思いをしていた。
「所長、確認しますけれど、白魔道士は刃物をもてますか?」
「無理に決まっている」
「それではもう一つ、私の職業は?」
「白魔道士―――って、あああああ!」
 ようやく気づいたか、と視線だけが全てを物語る。
「なんだとー! 俺の推理に間違いはないのに! ではなんだ、これは不可能犯罪なのか?!」
 一人のたうち回りかけている髷を放ったまま、長女はにこりとその他の面々へと微笑みかける。視線の端に、憔悴から立ち直りかけているミスラと、介抱に徹していた青年騎士を見据えながら。
「まず、第一に……犯人が使用した魔法は神聖魔法である可能性が高い。そして第二に刃物が使用できる者である。まぁ、あくまでもこれは犯人が一人であるのなら、ということを仮定した上になりますが」
「そうねぇ、剣を使う人間と魔法を使う人間が別々なら、成り立たない仮説ね」
 三女は相手の意図を汲むかのように呟いた。
「神聖魔法を使えるのは、お姉さまのような白魔道士とナイト……」
「そしてナイトは刃物すら取り扱いができる」
 次女とタルタルの視線が一人へと注がれる。
「さて、そこで考えてみます。今回のこの被害者である腹黒騎士さんが亡くなったとして、何が考えられますか?」
「麗しいミスラさんが、未亡人という更においしい……!」
 どこっとタルタルの後頭部に「誰か」が「何か」した。慌てて周囲を見回すものの、正確に何があったのか判別はつかず、仕方なく彼は痛む頭を戒めに黙りこんだ。
 ミスラ好きの何が悪いんじゃぁ!!
 心の絶叫はあくまで、心の中のみにむなしく響きわたる。そんなタルタルを綺麗に除外し、長女は咳払いをした。
「あらためて……私は最初にも申し上げたように保険会社から派遣された者です。この腹黒騎士さんがお亡くなりになられている場合、とある条件以外ならば、相応の保険金額が支払われます。死者を前にして、お金の話は随分と無粋かもしれませんが、この場合、保険金の支払先にも注目が行くべきでしょう。ちなみに、受取人は被害者の奥様になっています」
 彼女の言葉に、視線が一点に集中する。しかし、
「違う! 彼女がそんなことするはずがない!」
「念のため確認しますが、根拠は?」
「ミスラに悪い人はいない!」
 まだ懲りてないタルタルに、誰とはなしに溜め息をこぼす。
 三姉妹の心中には、思い込みが激しい彼に対して、某髷とそっくりかもしれないと心労の種が舞い降りた。
 しかしミスラの様子は、少々青ざめたように俯いている。呆然と何かを逡巡するかのように、首を振り、そして押し黙るのを繰り返すのみ。明らかに動揺しているかのようだった。
 そんな彼女の前に、青年騎士は立ちはだかる。割ってはいるかのように、彼女を守護するかのように、青年騎士は彼女を皆の視線からかばうように矢面に立った。
「何を根拠に……」
 その声音は存外なほどにか細い。
「はい、根拠はありません。ただ、この事実が起こった場合に、誰が益を得るかということのみを考えただけです」
「彼女が一番哀しんでいるのに、なんてことを……」
「安心してください。そもそも彼女には無理でしょう? あなたもご存知のように」
「どういう意味ですか?」
「理由は私と似たようなものです。彼女にはこの魔法を放つことができない。誰か「共犯者」でもいないかぎり」
「彼女には関係ない」
 苦渋に満ちた声で青年は呟いた。
 そんな相手を見て、長女は薄く瞳を細めた。



 時は幾分遡る。
「彼女を愛しているのなら、頼む!」
 森林に痛ましい声音がこだました。しかし、相手はそれを無視したまま、突き進む。
「聞いているのか」
 苛立ちまぎれに眼前の相手を止めようと手を伸ばすが、無情にも振り払われた。
「ああ、聞いてるけど、意味がわからんから無視している」
「どういう意味だ」
「それはこっちが言いたい」
 目の前のふざけた格好をした相手。その真意を測るには顔の半分が覆われているカボチャ型の帽子が邪魔だった。
 いつまでも引き下がろうとしない相手に、カボチャ頭の男性は嘆息をつくと、歩みをゆるめる。
「話だけは聞いてやる。順序だてて話してくれ」
「だから、彼女と別れてほしいと」
「順序だててって言っただろうが」
「このままでは彼女が不幸だ。別れてくれ」
 どこまでも平行線をたどるかのような問答に、カボチャ頭は深く溜め息をつく。
「あのな、どこがいいのか知らんのだが……」
「もちろん全てだ!」
「いいか? よーく考えてみろ。自分が買い忘れた豆腐のはずなのに、いきなり買ってこいとどしゃぶりの中を放り出されて、しかもどこもかしこも豆腐は売り切れているから、たくさんの豆腐屋をめぐりにめぐって、ようやく手にいれた豆腐を【いつものと違う】という理由だけで無碍にされ、かつ夕飯の予定だった、麻婆豆腐が何故か麻婆茄子に変わったのに、自分の席の前には冷奴しかなくて、それじゃあまりのもむなしいってんで【麻婆は?】って聞いたのに流された。しかも翌日になって、何故か他の奴はおいしそうな海鮮鍋をかこんでいるというのに、俺の目の前にはな、炒めたひき肉しかなく、【何これ?】って聞いたのにさらっと、【麻婆。食べたかったんでしょ】とだけ返すようなあいつで、本当にいいのか?!」
 一息でまくし立てたためか、カボチャ頭はわずかに見える頬を紅潮させ、かつ完全に歩みを止めていた。
「彼女がそんな頑なな態度を取るには、何か理由があるはずなんだ。全ておまえが悪い!」
「えーと……」
「彼女のためなんだ、別れてくれ!」
 懇願する青年に、相手は頭痛すら覚えそうになった。
 ここまでかみ合わない会話というのも、至極珍しいかもしれない、と……。
 話の発展は望めるべくもなく、仕方なく、腹黒騎士は一言だけ呟いた。
「おまえのためだ、あきらめろ」
「………!」
 常に頬を紅潮させ、話続けた青年騎士。無論、その言葉の真意を慮ることすらない。
 血気にはやる彼は、このままでは自分の想いをとげることすらできないと、そう危機感すら抱いたのかもしれない。
 スラリと涼やかな微弱な音が響き、彼はそのまま腰に携えていた剣を抜く。
「お、おい!」
 制止しようとした声は届くことなく、青年騎士の手に握られた剣は大きく弧を描いた。


 うっすらと、どこか優しげに微笑んでいる長女の視線を受け止め、それでも彼は気丈に振舞った。
「冗談じゃない。証拠もないのに、いきなり犯人扱いですか」
「全ての可能性を示唆しているだけです」
 追い詰める者と、逃げる者。対象的な二人の中に静かな火花が飛び散る。その二人の間に流れる時間だけが異質なもののように見受けられた。
「二人とも待ちたまえ」
 割って入るのは苦悩していたはずの髷所長。先ほどまでの落ち込みはどこへやら、いきなり復帰していた。
「犯人を追い詰めるのは俺の役目だ!」
 ぴきっと何かが響いたと思った瞬間、髷所長の身体は崩れおちた。背後にいるのは、見目麗しい三姉妹のうちの二人。
「さあ、お姉さま、今の内に」
「余計な邪魔はさせないから」
 次女・三女の連携プレーにより、髷の口は封じられた。この不可解な殺人事件より、今目の前で起こっている事象のほうが、よっぽど恐ろしいはずなのに、やはり誰も何もいわない………。
 その状態を満足げに頷くと、彼女は更に口を開いた。
「勘違いされているようなので、今一度……私は全ての可能性を示唆しているだけです。その上で、あなたが必死に守ろうとしている彼女は犯人ではありえないと考えています」「当然だ。彼女は決してそんなことはできはしない」
「では、問題です。腹黒騎士さんが亡くなられて、奥様以外にどなたが益を得る可能性があるのでしょうか」
 唐突な問いかけに、周囲は更に沈黙に包まれる。
 猪突猛進な髷所長は既に、こときれて……否、昏倒したまま。そしてミスラの好きのエロタルは、殺気を感じた故か、大人しく押し黙った。
 そのために静寂は静寂のままであり、長女も微笑を絶やさない。
「お見受けしたところ、随分と親密なご関係のようですね」
「な! 何を……」
「しらばっくれなくても、調べればわかることですよ。CCという名の調査団に依頼すれば、ジュノ大公の本日の朝食のメニューすらたやすく調べられるのですから」
「…………」
「使い古したパターンだと……不倫関係を隠すための共謀―――」
「違う! 彼女は関係ない!!」
 はじかれたように、青年騎士は叫び声を上げる。直後、その両目を大きく見開いた。
「彼女【は】関係ない。つまり、あなたは関係があると……」
 がっくりと青年騎士は、崩れおちた。


「殺すつもりはなかったんです……」
 何もかもを察したかのように、彼はゆっくり声音を紡いだ。
「ただ、あのままでは彼女のためにならないと……」
「不倫関係は成立していたの?」」
 三女が問い掛けると、青年騎士はミスラを一瞬だけみやり、うなだれたまま首を振った。
「いいえ……彼女は僕がナイトであることを、すごく喜んでいてくれて。彼女のために一生を投げ出そうと、僕が勝手に考えただけです」
 そして青年騎士はゆっくりと立ち上がると、横たわったままの腹黒騎士のもとへと歩み寄った。
「今更言えた限りじゃないが……すまなかった」
 冥福を祈るため、腹黒騎士の傍らに座り込む。瞳を閉じて静かに祈りをささげた。
 瞬間―――、
「きゃぁ!」
 複数の悲鳴が周囲に響く。
 何事か、と青年騎士が目を開けると、そこには、
「!!!!!」」
「はぁ~よく寝た」
 大あくびと同時に背伸びをする、カボチャのエルヴァーン。
 周囲の人々は衝撃に言葉を失わせ、信じられない面持ちで瞳のみ見開いていた。
「あれ? なんでこんなところにこんなに人が?」
 一人のんきに問い掛ける。しかし周囲の金縛りにも状態は続いていた。
 仕方なしに立ち上がろうとした矢先―――、
「のぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
 空から、青いワンポイントを持った物体が降ってきた。
 空から響いた悲鳴はこだまし、物体の後にさらに響いたまま消えた。
 どご!
 鈍い音が更に続き、誰もが目の前の事態に驚愕し、本当に感情すら止まった。
 物体は見事に腹黒騎士の頭へと刺さり、カボチャ無残にも割れ、その素顔を明らかになる。
 見目麗しいエルヴァーン。流れるような黒髪はそのまま今度こそ本当に沈んだ。
 その傍らには、青いボサ髪のタルタルが同じようにピクピクと身体を痙攣させたまま、気絶している。
 周囲の人々はまだ誰も動けなかった。



「ふむ……つまり」
「現行犯ですね」
「決まりね」
 髷、長女、三女と、それぞれが頷いた。
 それに青いボサ髪を振り乱して、タルタルは青ざめた。
「のぉぉぉぉ!!!」
「んじゃ、さっそく……犯人はおまえだ!!!」
「違う、事故だお。おいどん、何もしてないおおお!」
「タルタルさん、過失致死って言葉ご存知ですか?」
 にっこりと次女が冷たく言い放つ。
「お菓子なら知ってるけど、過失は知らない~」
「んじゃ、とりあえず……最寄の取り調べ室まで一緒に来てもらおうか」
 緑帽子のタルタルは、あくまでも義務的に言葉を続けた。彼が哀れと思うまでもなく、かのタルタルの心の中はとあることで満たされていた。
 これで無事に休暇に入れる!!!!! 女神様ありがとう!!!!
 心の中のファンファーレに踊っているいそいそとボサ髪タルを縛り上げる。
「大丈夫、怖くないからねぇ~」
「だ、だからおいどん無実だってば!」
「はいはい、最初はみんなそういんだよねぇ~」
 心、ここにあらず、極まり。
 呆然となった青年騎士とミスラに、長女は冷静に告げた。
「数々の無礼はお詫びいたします。
 それと……保険金につきましては、指定ポストに1ヶ月以内に送金させていただきます」
 それに、彼らはただただ頷くしかなかった。


 さて、その後―――
 手柄をあげた緑帽子のタルタルは辞表をたたきつけて、とうとう転職に成功したとか、
 髷所長は懲りずに今日も依頼人を捜しているとか、
 次女もとうとう見切りをつけて、仕事をやめた長女・三女とともに新しく喫茶店を始めたとか、
 莫大な保険金を得たミスラが、ようやく現実に戻り、白い鎧逆ハーレムを建設中だとか、
 それでも彼女をあきらめきれない青年騎士は今日も今日とて献身的につくしているとか、
 そもそも莫大な保険金のために、一気にホームレスになってしまった、保険会社の社長が調査会社のCC乗っ取りをたくらんでいるだとか。
    :
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 それら全ては、語り部様のみが知っている。
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    :
    :
 そういえば、腹黒騎士の遺体は自然に帰すとの祈りをこめて、キノコの胞子に包まれて、埋葬されたとさ。


                              <終わり>
by kyaokyawo | 2005-01-18 21:41 | 読み物
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